第二十四話

第二十四話


雑魚と化したBETA。
もちろん手の届く範囲の話です。



 帝国の内需拡大を横目でみつつ、美味しそうな製品のパテントを購入して自国内でも作り始めた米国だったが、予想以上に売れているらしい。

 シャワー便座

 色々と理由はあるが、やはり人種が様々に入り組んでいる関係で体臭問題は大きく、そして内分泌系の周期の問題は地味に大きかったとか。
 やはり毛穴などよりも排泄口の臭気は大きい。
 重大臭気の一部取り払う事になるのが嬉しいという。 というか新しいエチケットになりつつあるとか。

 まぁ、例のレインボー系の人々には爆発的に売れてるらしいのだが、それはそれ。
 内分泌系体液がヌラヌラ影響するのはトイレばかりではないのだ。
 そして全裸にならなくても「洗浄」できるという事で非常の好評好評大好評。
 シャルル一押しのスマッシュヒット商品であった。

 そんなシャルルも女の体になってからは・・・


「フー、このビデって、ちょっとすごすぎる発明じゃない?」

 とか目をきらきらさせてる。
 うん、三派連合嫁軍団の総意であるとか。
 あわせてあの夕子さんもお気に入り。

「研究生活が長いと、正直、あれるのよね」
「解ります、夕子さん」
「病気か、とか思ったら実は・・・って絶望したわ女として」
「わかります、わかりますぅぅぅぅ」

 と、簪と手を取り合うAL4総責任者様。
 詳しくは聞きませんよ?

 それはそれとして。

 過去、間引きですら機材消耗以上に人的被害が鰻登りであったBETA前線であったが、昨今ではOKEの大量投入により監視時間の隙間が消滅し、防戦反応時間にも空白がなくなり、そして一時反攻戦力にも時間的波がなくなったことで被害が激減。
 先月平均で言えば、USAの交通事故者の方が多いほどになっている。
 ユーラシア内陸戦線における帝国の被害者など皆無。
 やはりOKEとISの絡みが大きな安定感を示していると言える。
 日和見議員など戦術機の消耗に言及し始めている。 なんとも頭の軽い話だという評判だが、いつ主流派に変わるか解らないので牽制は必要だともっぱらの話。

 そんな人的被害の低下は、無限に発生していた国力の低下に歯止めがかかることとなり、余裕のない国でも内需拡大を意識する結果となった。
 そこで、様々な製品開発が始まり、そして輸出入に関して意識が高まったと言える。
 シャワー便座に関しては、USAでの商業活動権利を政府からもらっているので、USA国内生産で内需拡大に貢献している形になるが、実際にはコア部品は日本からの輸出になっているので、現地組立、という方式になる。
 とはいえUSA工場は西海岸と東海岸にあるので、それなりに雇用拡大をしていると言える。
 企業増益、資金循環の円滑化、そして雇用増大。
 それはBETAによる終末的未来予測をねじ曲げる事となり、いわゆる自滅系キリスト教分派、いわゆる殉教派の派閥を大いに削る結果となってきていた。

 

 うむ、生まれの流れというか、実家の家風というか。
 クラリッサが姉として存在していること自体が恐ろしいわけだが、それ以上に日本が恐ろしい。
 日本に実際に来るまでは、日本という国全体が飽食の国というイメージであった。
 しかし、しかしだ。
 まさかここまで質素倹約を実行しているとは思わなかった。

 もともとのイメージは、前線に支給される戦時食の豊かさからくるものだった。
 日本どころかISすら忘れていた私は、そこそこアジアの片隅への逆恨みを感じていたのだ。
 国土が荒れ果て自国民が逃げまどう中、日本という国は飽食に明け暮れている、と。
 ISを思い出してからは悪感情が薄れたが、それでも逆恨みはしていたとおもう。

 が、日本に来て思った。
 なんでこんな粗食に耐えているんだ、と。

 いわゆる、味覚調整剤を使っても「まずい」と思える合成食を、一般日本人はにこやかに食べているのだ。
 陰ながらフーに聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「最前線で命を懸けている人々のほうが先だって、意識があるんだよ」
「・・・え」

 日本の工業生産力のリソースの大半は、BETA戦争の最前線に向けられている。
 武器弾薬や補給品が主であったのだが、手に入れた合成食糧政策リソースまでそうだたっとは。
 今でこそ内需に資金が回っているが、私が来た頃など配給制に近い状態であった。
 そして資金が豊富と言われているAL4組織内でも一般日本人と大差ない食事をしている。
 正直意味がないのではないかと思ったが・・・。

「ラウラさん、この味を忘れちゃだめなんですよ」

 この世界におけるフーの幼なじみ、白銀タケルは語る。

「美味しいものはいっぱいあります。まずくない食事を維持することは可能です。でも、いつその生活が崩壊するか解らないのが『今』なんです。大陸は未だ前線ですしハイブは未だ目の前に山積の状況で戦線崩壊すれば、いつ日本全体が避難民になるか解ったものではありません。普段からふつうの食事になれていないと、そのときの士気低下は目を覆わんばかりですよ?」

 しかり、と納得させられた。

 確かに、日本からの味覚調整剤が入ってくるまでは食事という時間が苦痛だった。
 栄養補給に必須だから我慢していたが、それでも餓死の方がいい死に方なのではないかと思えるほど不味かったのだ。
 そんな気持ちが殉教派という存在を生み出したのかもしれない。
 それに比べれば、日本の合成食は上々だろう。
 しかし妄想していた日本の飽食にはほど遠い。

「合成食プラントを日本でも動かしているから、色々と改良できてるんですけどねぇ」

 苦笑いの白銀。
 そういえばUSAの合成食品メーカーをフーが買い取ったのであったか。
 それでもまずい食事、と。

「あいつの話だと、根本的な建て直しには原料からの調整が必要だって言ってましたね」

 原料の味付け、ではなく分子単位での分解と合成、だそうだ。

「つまり、原料が汚染されているので、クリーニングをしなければならない、ということか」
「もしくは、クリーンな食材の安定生産ですかね?」

 この向上心が日本の工業力を支えているのだろうことは間違いない。

 アジアと、前世の記憶で考えれば、まぁいろいろと影響されたためか「劣化コピー」というイメージがつきまとう。
 だが、前世と今生もあわせてみても日本という国は「吸収」「改善」の国であると感じる。
 過去、欧州で開発された火縄銃は、雨天や湿気などで使えないと言うことで、徐々に別のものが取って代わったが、日本という国では雨でも湿気ててもつかえる「工夫」が進められ、弱点を創意工夫で埋め尽くして行ってしまった。
 巡り巡って出会ってみれば、全く別物に進化した火縄銃が出現してしまったという笑える話がある。
 いや、笑うしかない現実であった。

 ランドロックという言葉がある。
 世間や世界から隔絶された箱庭環境における独自進化のことを指す言葉だ。
 日本という国、大日本帝国という国。
 双方ともに、技術的なランドロックが発生しやすい国であった。
 全く世界に接触していないと、そのまま謎進化をするのだが、情報回線がつながったこの世界においては、絶えず情報が更新されてゆき方向修正がされちゅく。
 謎進化はない。
 しかし、絶え間ない新情報から生まれる「創意工夫」がどこに着地するのか、正直に言えばわくわくしているのであった。

 まぁ、謎進化は風太郎だけで十分だしな。

 

 OKEのコア技術移転とか、ISの技術移転とか。
 世界の要求は大きいが、技術公開しても世界の技術力では絶対に作れない。
 OKEコアならば、ギリギリ作れないこともないのだが、ベースマシンの制作ができないことには話にならないわけで。
 基本、対BETA戦争に対するリソースが回復しないことには追いつくことはないだろう。
 AL4の目標である太陽系圏からのBETA排斥及び廃BETA維持が完成するまで、技術的リソースのほとんどを費やす必要があるし、ソコに至るまでは艱難辛苦となるだろう。
 しかし、しかしだ。
 その戦いを支えるのは人々の暮らしであり人生。
 衣食住が大きく欠けていれば根本から崩壊する。
 もちろん心の余裕も必要だ。
 衣は華やかな彩りが必要だし、食は栄養ではない味を求めるだろうし、住は快適さを求める。

 ・・・あれ、衣類意外は無理矢理やってしまったか? 

 まぁ、いつものことだ、うん。

 技術進化の目標としては、月ハイブ平定ぐらいまでにOKEコアを独自に作れるようになってもらいたいと思っている。
 もちろん彫刻魔法技術ではなく、ICやLSI技術による互換品の製作面であるが。
 目標とする何かがあれば、人々はソコに向かえる。
 現実の技術があれば、なんとか模倣しようとする。
 それが人間の科学を支えた原動力といえる。

 というか、日本国内の話だが、日本便器工業社がシャワー便座を便器も含めた形で設計して発売し始めた。
 値段も少々高く、庶民で購入が難しいものだったが、元々和式便器だったところにシャワー便座を据えるために洋式便器に入れ替える工事が発生していると考えれば、アプローチに間違いはない。
 数がはければ単価も下がるだろう。

 この反応こそ、日本、と言うべき動きだ。
 加えて言えば、「こういう製品を考えたので売らせてほしい」と一言入れてきているのも日本らしい。
 電撃的にだまし討ち的に売るのではなく、競争相手として、ライバルとして名をあげたいと言ってきている姿には好感しか生まれない。
 これで隣国系統が生き残っていれば、無断で同じ製品だといって劣化コピー品を売るであろうことは間違いない。
 中には「うちこそ元祖だ、コピー品を作っているおまえ達こそ謝罪と賠償をしろ」とか言ってくるバカも居るだろう。
 うん、隣国から居なくなってくれて助かった。
 世界中に散らばってるけど、あの国の人間は三人集まれば内ゲバをする国民性なので、日々国力は落ちる計算だ。
 二十年もすれば世界を放浪させられた悲劇の存在だとか自称し始めるだろう。
 今のうちに色々と証拠を公文書館に納めておくようにしないと面倒だわ。

 さすがにAL4派生技術、縮退炉は実用化していないが一般工業力だけでの技術供与でBH爆弾や非核熱反応弾を作り出せているUSAの実力は確かなもので、科学的なアプローチで斥力場の説明に至っているのは流石だと思う。
 様々な企業が縮退炉の実験炉建設をしているが、未だ「移動可能」なものは建設できていない。
 目標は縮退炉「空母」を作りだし、斥力場の実験機による自国製「航空戦艦」建設が短期目標らしい。
 大統領の話だと、建造費は割としゃれにならないレベルらしいのだが、内需拡大の意味を考えると通さざるを得ない話だとか。
 他にも自国生産したいAL4成果技術はあるそうだが、なによりまして「縮退炉」なのだそうだ。
 まぁあれが一度稼働すれば、国内エネルギー事情は一変するし。
 石炭などの化石燃料産業がひっくりがえる恐れもあるけど、それはそれとして工業転換は必須なのだ。
 なにしろ非化石エネルギー中心へ移行しないと、間違いなく宇宙時代に乗り遅れる。
 もちろん、地球という土地中心で活動するという方針ならいいが、USAという国が「フロンティア」を逃すはずがないのだ。

 ガソリン・石炭に代表される化石エネルギーを、反応炉系電力に切り替えることは難しくない。
 現在でも照明やインフラの多くを電力が賄っているからだ。
 化石燃料によって維持されてきた工業力を転化するだけの時間と費用の捻出が難しいだけなのだ。
 しかし、しかし。
 すでに新型エネルギー炉の実証体を見せられている。
 応用技術による爆弾の製作もできている。
 こうなると加速する。
 加速するしかない。
 走り出し、走り続けることにこそアメリカンスピリッツが存在する。

 日本工業界へ供出した技術にキャパシタデータがある。
 コンデンサ技術で作られたバッテリーのようなものだ。
 この技術のすばらしいところは、ものすごく早く充電できること。
 そしてコストが安いことであった。

 現在、日本の戦術機に搭載して実証試験が行われているが、稼働実証試験なのに機体の耐久度が負けるという恐ろしい結果が出されてしまった。
 多少スペックダウンすることで電気自動車や電気バイクなどに搭載できるようにする予定で、日本国内の化石燃料不要化へ一歩が進む流れだ。
 科学衣料品原料としての需要は高いままだが、石油や天然ガスの消費の方向性は大きく転化するだろう。
 あと化石化燃料触媒素材の開発も必須。
 燃料として燃やすのではなく、エネルギーを抽出する方向であれば、タンク積み替えでチャージいらずになる。
 最終処理としては宇宙空間での噴射材、という使い密のために貯蔵を考えているが、近いうちに○ーソン系技術か束さんが作ってしまいそうなのが怖い。

「・・・ふーちゃん、何でそんなものが必要なの? 非化石化燃料でゴーじゃないの?」

 呼んでもいないが現れた束さん。
 自分の話題には機敏らしい。
 
「覚えているかはさておきまして、この地球表面には永久凍土や海底地底層近くのメタン層が大量にありますので、その辺の無害化と土壌補強が必須かと」
「あー、そういう話?」
「ええ、そういう話です」

 今をさかのぼること数十億年前。
 この世界はメタンで満ちあふれた地獄になって、海中生物の大半が死に絶えた。
 そのメタンがどこに行ったかというと、実はまだ世界中の地中に存在しているのだ。
 北限の地や海中の奥底の地中に。
 圧力や温度によって結晶化した「メタンハイドレート」と呼ばれる存在として。
 地球環境変動で平均気温が上がってゆくと、永久凍土が溶けてメタンがぼっこりあらわれたりするし、地形変化や隆起作用によって圧力が加わって露出したりする。
 その量は大量にして莫大。
 一気に地球の温室化が進むだろう。
 そうなってからでは遅いのだ。
 というかそうなってから開発しても追いつかないのだ。
 だから、今のうちに無駄なく利益ある形で処理できるように手を打っておかないといけない。

「それってさぁ、ある意味、正常な地球環境の破壊ってことになるかと思うんだけど、ふーちゃん、そのへんどうなの?」

 地球環境の激変もまた正常な地球の活動とみると、確かにその通り。
 現在の気温と大気状態が維持されているなんて、ん万年無いのだ。
 謂わば今は地球環境の「凪」の時代といえるだろう。

「我ら人類は地球という星に生まれた、個にして全たる地球生命。大地の改造は、いわば自己改造!」
「傲慢な科学だよねぇ」

 ISなんてものを開発した人に言われたくねーですよ。
 とまぁ、言わないが。

 とはいえ、人間にとって都合のいい環境をある程度固定化しつつ資材投入して最良化する。
 これって外惑星のテラフォーミング実験でもあるわけで。
 下地のある地球でできなければ、火星の地球化なんて夢のまた夢である。

「まぁ、たしかにねぇ」

 ふらりと話にはいってきた夕子さん。

「いかに地球環境に近い星を見つけたっていっても、細かいところまで一緒なわけがないし、環境調整できなければ意味がないしねぇ」

 で、いろいろとガタガタな地球だが、この地球を問題ないレベルまで改造できなければ、他の星をテラフォーミングなんて無理に決まっているのだ。

「その辺、私が一席ぶち上げる? 風間がやってもいいんだけど」
「夕子さん、お願いします」
「まぁ、その辺ぐらいはやってもいいわね」

 にこりと笑った夕子さんは、ふたたびふらふらとどこかに消えた。

「最近、ゆーちゃんって余裕あるねぇ」
「ほら、BETAの驚異レベルが下がって、いろいろと時間的余裕が出来たから」
「あー、そっか、この世界の未来を理解すれば、そりゃ焦るか」

 天才であり天災である束さんも、それなりに未来を憂慮していた一人なのだが、人格封印期間があったため誤差が大きいらしい。
 AL4に出入りするようになって最新情報が手に入り驚いたとかなんだとか。
 現在、彫刻魔法に夢中で、紋章技術の高集積化に挑んでいたりする。
 彫刻魔法研究会のみなさんも、科学的反応がいい束さんを慕っていたりする。

 




本作品内のAL4の最終目標は、太陽系圏内からのBATE排斥です。
だからといって、太陽を吹っ飛ばして全滅とかいう仕様ではありませんw