第七話

第七話

 

 翌朝、セシリアを誘って食堂の調理場を借りて「BLTサンド」を作って見せた。
 俺が余りに簡単に作ったので驚いていたが、簡単につくれて簡単に食べられるのがサンドイッチの売りなので当たり前である。
 セシリア自身も同じように作って見せ、あまりの簡単さに驚き倍増。
 これに万能調味料の塩やマヨネーズが少量はいるとカロリーアップ。
 風味や味付けは次回ということで。

「・・・なんということでしょう、こんなににも簡単に作れてしまうのですね」
「といっても、ベーコンもレタスもトマトもスーパーで買ったモノを組み合わせているだけだ。逆に行えば、1からベーコンを作る人間はごく少数だし、レタスもトマトも自分で作っている人は少ない。料理っていうのは、そういう出来合いのモノを組み合わせることだと思う」
「・・・卓越なお話ですわ」

 焼いたり煮たりする行為もまた基本だが、素材の味だけで勝負できるし。
 日本では「さしすせそ」が料理の基本とかいうけど、食べるに焦点を合わせれば煮炊きの必要はない。
 もちろん「おいしく食べる」という焦点に切り替わると話は違うけど。
 とはいえ「まずくない」食事をありつくレベルであれば素材の組み合わせで稼げる。
 まぁ素材のない段階になると、素材に仕上げる技術が料理となるわけだけど。

「まずは、オリジナリティーを意識しないで、一緒に口へ入れておいしいモノの組み合わせを絞ることだな」
「・・・ありがとうございます、祐司さん」

 そんなわけで、今作ったサンドイッチをメインに、セシリアの入れた紅茶で朝食となったのであった。

「・・・なぁ、セシリア」
「なんですか、祐司さん」
「お茶の手順によけいなモノを入れないレベルで料理の手順も守れば、それなりだぞ」
「そうですか?」

 心底不思議そうな顔が微妙です。
 噂の本家親友メイドにでも連絡を取れないだろうか?

 


 各社の練習機が満漢全席状態な影響で、授業中のIS訓練のコマ数が結構多い。
 その分の座学を課題にされたり授業外の時間にはみ出したりしているのだが、それはそれで評判は悪くない。
 各学年共にISコマ数が増えるのは良いことだし、ラファールと打鉄だけだった練習機に幅が出来たと好評である。
 そんなわけで、俺たち一年は綿密なIS訓練と課題山盛りとを存分に楽しんでいるわけだが、一人部屋のデュノアがやらかしてしまった。
 そう、課題を一緒にやるという約束を俺と一夏と交わしたのだが、時間読みを失敗してシャワー中に俺たちが訪問してしまい・・・

「・・・きゃっ!!」
「うおぉっ」
「・・・(げんなり)」

 そう、シャワー上がり後、いろいろと装備し忘れて「素」のカッコウにジャージという姿で現れてしまったのだ。
 「それ」そ思わず注視してしまった一夏、そして見られたことを理解して「それ」を両手で隠すデュノア。
 で、しでかしたデュノアをみてげんなりした俺。

「なにか失礼なこと考えていないかな、阪上君!」
「いやな、ほら、デュノアも肉食系女子だなぁ、と」
「え、ちょっとまってよ、え、え?僕そういうことしてないよね、ね?」
「いや、な? よく、女子がいうじゃないか。男のちら見は女にとってガン見、みたいな。俺らもそういう感じで感じ取っててなぁ」
「あー、まぁ、なんつうか、デュノアの腹筋チラ見が羨望じゃなくて欲望だったとはなぁ」
「欲望ってそういう言い方はないんじゃないかな!? みちゃうよ、みちゃうって、あんなにすごい腹筋なら見ちゃうってば!!」
「「でもなぁ~」」
「わーーーん、ひどいいじめだぁ!」

 とまぁ、ひとしきりからかった後、彼女の事情を聞くことにした。
 つうか、EUの代表候補名鑑を参照している俺には、彼女がシャルルではなくシャルロットであることは明白だったわけだが。

「・・・え、ほんと?」
「少なくとも、自己紹介段階でセシリアと『フランスの正気度』について意見交換してるぞ」
「・・・ふ、ふ、ふはははは、なんてことだろう、もう、なんだかなぁ」

 がっくり肩を落としたデュノア曰く、会社の方針で男子として入学して俺や一夏のデータを奪取してくるようにいわれたとか。
 目的は、まぁ、簡単にいえばISの開発遅れの巻き返し。
 デュノア社は、第二世代ISの傑作ともいえるラファール=リヴァイブを作り出した。
 機体性能的に第三世代に迫り、価格的に第一世代程度というコストパフォーマンスを見せた影響で、IS発祥の国である日本の打鉄を上回るシェアを誇っている訳だが・・・。

「そうだよ、なんで第三世代の開発が遅れてるんだよ。リヴァイブで最大シェアを誇ってるなら・・・」
「一夏、この世の中にはオーバークオリティーという言葉があってだな」
「うわぁ、阪上君には解るんだ」
「最大シェアで開発遅れってことになれば、そりゃ資金不足と時間不足だろ。いまのリヴァイブを改修しながら売り続けることが出来ればコストバランスも間に合って一番だが、EUのイグニッションプランの期日には間に合わない」

 そう、現在EUを席巻しているリヴァイブをおもしろく思っていない各国が、自分たちの国元で作るISの性能を競って、EU標準ISを設定して世界に売り込もうというのがイグニッションプラン。
 これに間に合わないということとは、世界標準からはずれることを意味する。
 つうか、今回の男装入学にはフランス政府の肩入れもなければ成功しないので、短期入学・情報奪取・速攻退学という流れで本国に戻って、というプランなののは見え見えなのだが・・・。

「おい、もしかすると、デュノアって捨て駒扱いか」

 怖い顔の一夏がすごむと、デュノアの肩が震える。

「一夏、ここまでの話は表向きの話だ」
「表向き、だと?」
「・・・阪上君、どういうこと?」

 まず、この情報奪取で得られたものを活用するためのベースが、世界中のどの企業にもない。
 これは篠ノ之束が男子ISノリの法則を発見していないことからも解る。
 逆に行おう。
 この情報を得たからといって、第三世代ISは作れない。
 そして低い確率ながら男子ISノリ用ISは作れるが、作っても何の意味もない。
 だって、俺も一夏も乗らないし。

「・・・あ、そうか、そりゃそうだ。じゃぁ、デュノアって何のためにIS学園にきたんだ?」
「え、えええ、で、でも、僕は、社長に、お父さんに・・・」

 曰く、デュノアは妾の子であったそうだが、母親が死ぬまであったこともないような父だったそうで、母親が死に際に現れて、デュノアを引き取ったそうだ。
 とはいえ妾の子ということで本妻からヒドく当たられて、かなり昼メロ系のいじめを受けていたそうだ。
 まぁ、本家にはほとんど住んでおらず、デュノアのIS研究所で寝泊まりしていたので、さほどのストレスにならなかったそうだが。
 それはそれとして。
 ほとんど顔をあわさなかった父親からIS学園への入学を決定されたとか。
 その際、男装をして名前を変えて入学するようにという決定を添えて。
 スパイとして捨て駒として、そんな任務を背負わされた彼女であったが、俺はそこに疑問を感じる。

「本家にいたのではヒドい扱いなので、IS研究所に仕事と住処を与えた」
「・・・え?」
「直接会うと本妻が暴走するので、出来るだけ会わないようにしていた」
「・・・うそ」
「素人が見ても穴だらけの計画を無理矢理進めなければならないほど、デュノアの身の危険が迫っていた。だから戸籍を改竄して渡航記録まで塗り替えて政府の協力まで得て国外に逃がした」
「・・・そんな」

 というのが俺の生暖かい推理だ。
 俺の話を聞いて、はらはらと涙を流すデュノアの肩を抱きながら一夏を見た。
 一夏もウンウン頷いている。

「・・・阪上君、僕、その話を信じていいのかな? いや、信じたいんだ、僕は」
「俺の想像する一番温い妄想だ。でも、少なくともこう考えると政府がグルっていう理由が納得行くな」

 いかに国内IS企業が崖っぷちだってスパイ容認なんてしない。
 逆に国内就職先の最大手が潰れてしまっては国家としても大騒ぎになる。
 第二世代ISの開発でも最後発ながら世界を席巻したデュノアだ。
 イグニッションプランからはずされた後でも巻き返すことは可能だろう。
 EU標準になったからといって、フランスがそのISをメインにしなければならない謂われはない。
 最良のISを、性能が大きく上回りつつも価格が一段と安い機体を後出しじゃんけんで出せばいいのだ。
 少なくとも、その苦境を耐えうるだけの資本もあるだろうし。

「・・・なんだろう、僕って、ものすごく追いつめられてたのかも」
「そういうもんだぜ、デュノア。俺も祐司も結構視野が狭くなることがあるけど、仲間がそれを補い合うもんだしな」
「そうそう、デュノア。逆に情報をセッツいてきた相手がいたら、そいつ等こそが敵だ。おもしろいほどの(まと)になるはずだ」
「おいおい、祐司。そりゃおもしれーじゃねーか」
「はっはっは、一夏、世の中っていうのはそういう方向で出来ているのだよ」

 かっかと笑う俺たちであったが、しばらくたって課題が終わっていない事実を思い出し、真っ青になって取りかかるのであった。
 やばいやばい。

 

 とりあえず、事の次第を千冬さんに報告に行った俺と一夏であったが、千冬さんも大きなため息。

「早々にバレるとは。やはりニワカでは無理があったようだな」
「やはり織斑先生もご存じで?」
「当たり前だ。性別確認(セックスチェック)は本国で済んでいると強行に断る段階で怪しんでくれといっているようなものだ」

 まぁ、ミツバチ恐怖症だからという理由を付けると微妙に真実味が出るんだけど。
 それはさておき。

「千冬姉、祐司の言ってるような内容、確認できないか?」
「・・・一夏、一応放課後だから容認するが、もう少し公私を分けろ」

 そういいながら苦笑いの千冬さん。

「まぁ、すでにいろいろと調べさせてるが、祐司の妄想の75%程は合ってるな」
「3/4もあってるんだ、つうかマジですか?」
「かなり、・・・というかお前等からその話を今聞いて、諜報部門のセキュリティー班が大わらわだ」

 うっわー、とドコともなしに見てしまった俺であった。
 つまり、デュノアの部屋を盗聴していた諜報部門が、あたかも諜報部門が調べている内容をリークしているかのように説明する俺の話を聞いて、まじセキュリティーの危機なのだわよさ!! ということなのだろう。

「まぁ、一番慌てふためいているのは、お前等の師匠だがな」
「「・・・ああ、楯無生徒会長」」

 よっぴきでお仕事となるであろう先輩に、深い哀悼の意を捧げる俺たちであった。

「「草葉の陰で、俺たちを見守ってください」」

 この発言も伝わったらしく、後日大いに抗議された俺たちであった。

 

 とりあえず、情報戦略は早さが命と言うことで、シャルル、いやシャルロットの男装入学はデュノア社の一部勢力の暴走という形で処理される事になった。
 見え見えの男装だったので学園生徒もノリノリで受け入れて様子を見ていたという話にねじ曲げたのだが、後の評判が怖い。
 それはそれとして、フランス政府にもその方向性を打診すると、あっちもノリノリで。
 およそ予想通りの展開だったらしく、フランス政府も歩調を合わせることになったとのこと。
 すでにEU各国政府との歩調も合わせており、デュノアは「今回の」イグニッションプランから一歩引く旨の但し書きを出すことで各国政府からの譲歩を引き出した。
 そもそも、最新の第三世代IS練習機を見れば解るが、現行のラファールと同数を購入できるようなコストダウンに至っていない。
 ラファール=リヴァイブという機体はそれほどのコストバランスを誇る傑作機なのだ。
 逆に言えば試作中の第三世代装備を搭載したモデルを揃えるなど絶対に無理。
 となると、機体性能で第三世代に迫るといわれる配備済みラファール・リヴァイブが脚光を浴びることになる。
 隊長機やトップガンの機体を第三世代ISで整え、練習機や通常装備ISをラファール改修機で賄う流れになるのは間違いないだろう。
 つまり、確実に勝てる後出しジャンケンであることは間違いなく、そのうま味は計り知れない。
 第三世代の開発遅れなど、五年もしないでひっくり返ることだろう。
 そんなわけで、いま、イグニッションプランに間に合うように中途半端なモノを出すよりも、IS学園に貸し出された第三世代タイプ練習機を圧勝するような改修機を低コストで仕上げた方が絶対未来が明るい。

 こんな説明を俺から聞いたシャルル、いやシャルロット=デュノアは真っ青になっていた。

「・・・阪上君って、経営の才覚まであるの?」
「いやいや、ふつう考えればそういう流れになるだろ」
「いやいやいやいや、絶対に思いつかないってば!」

 力説するデュノアの隣で一夏が煙を吐いて白目になっていた。
 どうもオーバークオリティーから派生した説明が全く理解できなかったらしい。

「普段食事に使う食材と、客人を歓迎する食材にはランクがあるけど、普段の食事用に歓迎食材は使わないだろ? それをISで考え直せ、一夏」
「・・・そうか! コストってそういう意味か!! 普段の食事がラファールで、歓迎用が新型機か。毎日使わない食材、つまり軍用ISの全てを新型にしてはコストに合わない、そういうことか!」

 自分なりの解釈が追いついたのか、拳を握りしめる一夏であったが、デュノアは苦笑いだった。

「でもすごいね、阪上君って。なんか軍の作戦参謀みたいだよ」
「そうなんだぜ、デュノア。学園に入る前まで仲間内だけじゃなくて、地域活性化とか無茶もしてるしな」
「え、どういう話?」

 思わず俺は睨んだが、全くこたえることなく笑顔の一夏が俺の黒歴史の数々を開帳。
 商店街ネットワークやニート崩れ雇用問題とか、なぜうまく行ったのか不明な内容が多いが、今でも順調に機能しているのが恐ろしい。
 収入可能性のある「部活」を商店街に開設して維持しているというのが俺の感覚なのだが、説明を受けたデュノアがキラキラした目で見るのが怖い。

「へぇ、すごいんだねぇ! もう一人前のコンサルタントみたいじゃない」
「あー、地域経済規模が小さいから成功してるだけだぞ」

 地味に赤字気味の企画だってあるし。

「全部が成功しているわけじゃないのは当たり前だよ。でも、失敗があってもみんなで支えるって言うのが成功の秘訣だと思うよ、僕は」

 確かにそういう仲間意識があることを認める。
 だからこその安定化であるわけだし、新参者の入りにくい空気になってしまっているのが問題なわけで。
 商店街ネットを支えていないからニート就職ができないみたいな流れが払拭しきれなかったことが悔やまれる。
 絶対に痼りになるからと説明しても聞き入れてもらえない。
 というかそういう意識が根底に残ってしまうのは仕方ないのだろう。

 それはともかくとして。

 学園外と学園内の調整が済んだあたりで女子として再入学する手はずとなっているため、現在も男装を続けなければならないデュノアであるが、当初と比べてストレスは少ないそうだ。
 やはり秘密を打ち明けた相手がいるというのが、打ち明けた相手に許されたというのが大きいのだろう。

「はぁ、なんだかうまく行きすぎてて怖いよ、僕」
「ま、こう言う時にこそいろいろと注意すべきなんだろうな」
「好事魔多しっていうしな」
「コウジ、マ、オオシ?」
「ああ、調子のいい時ほど事件や事故が起こりやすいから注意しましょう、って話だ」
「へぇ、おもしろいね」

 と、こんな会話をデュノアの部屋でするのが日課になりつつある。
 当初は俺たちの部屋と行き来していたのだが、デュノアを歩かせるだけで違和感が激しいため、俺と一夏が通っている。
 まぁ、言われれば、と女子が気づくかどうか微妙なところだが、父親や兄などがいれば違和感を感じるレベルなので、出来るだけ俺か一夏がついて回っている。
 こうすることで、違和感を日本人とフランス人の差として認識させるわけだが、今のところ成功しているのだろうと思う。


「(阪上君や織斑君の言ってた視線の意味、解ったかも)」
「(女の立場で言えば、胸を見る男の視線だろうな)」
「(うん、そっくり)」

 最近絞れてきた腰回りを中心に筋トレをしていたデュノアとつきあいで筋トレしていた俺であったが、同じくデザート筋トレしてる女子の視線が集まるの何のって。
 ISスーツで全身を覆っている俺と一夏と違って、デュノアは腹周りが解放されているため直接視界に入れられてしまう。
 そのため偶然を装うようなエロ視線が腹周りに集中するとか。
 男装しているだけで骨格なんかは女子なのだが、欲望に曇った女子の視線はそれを見通せるものではないらしい。
 何とも残念な話だ。

「阪上君っ、というか織斑君もそうだけど、結構鍛えてるよね」
「ん、まぁIS検査前までは受験生つうことでサボってたけど、スポーツしてたしなぁ」
「織斑君は剣道だっけ?」
「そうそう。初恋を引きずってな」
「・・・ああ、この前聞いた篠ノ之婦人の?」
「そうそう」

 実はこの話、意図的に広めている。

 一夏に対するアプローチが結構あるのだが、全く相手にされないと言う事から「ホモ」なのではないかという悪評が意図的に流されている事への対策でもあるのだが、逆に俺の悪評は流れていない。
 何故かというと・・・

「で、阪上君は、織斑先生が初恋、と」
「・・・照れるけどな」
「学校の担任教師が初恋の人って、なんかマンガみたいだよね」
「(エロマンガみたいとはいいたくねぇ)」

 とまぁ、そういうわけで、事は織斑先生の評判に関わると言うことで悪評がついて回っていないのが現実だ。
 一夏とは別の意味でお世話になっていますと言うわけだ。
 ありがとうございます、と心の中で両手を合わせる俺であった。

「(ところで、阪上君)」
「(ん、なんだ?)」
「(阪上君って胸は見ないけど、視線はその斜め上ぐらいをさまよってるよね?)」
「(・・・俺、鎖骨派なんです)」
「へぇ・・・」

 なんだかもの凄く侮蔑された視線で見られている気がする今日この頃でした。


 ちなみに、その日以降、鎖骨を露出したファッションが流行りだしたのは何の合図であったのか。




鎖骨派はマイノリティーではないと信じますw