第六話

第六話

 


 俺、阪上祐司はちょっと困惑していた。
 何故かというと・・・

「祐司は私と買い物に行くのよ!」
「祐司さんは私(わたくし)と特訓しますのよ!!」

 なぜか鈴とセシリアに両手を引かれていた。
 俺の正面では一夏がニヤニヤしていて、俺の背後には何故かチフ、織斑先生が腕組みしている。
 あと、柱の陰で黛先輩と生徒会長がニヤニヤしてみてるし。

「あー、俺はどちらとも約束していないという記憶があるが間違ってるかな?」
「「・・・っう」」

 両方の手に掛かった力が弱まったので、一歩引いてみると二人の手から俺の両手が離れた。

「まず、俺の休日の予定だが、一夏と旧友に会いに行く予定だ」
「弾たちでしょ、それなら・・・」
「鈴、お前は提出義務のあるデータをISでとらないといけない、そういう話が今週あったよな?」
「・・・う」

 実は、中国の管理官からそういうリークをされている。
 その辺の自欲に弱い鈴を通信越しだけでは管理できないので協力してほしいというもの。

「つうわけで、地元の仲間と久しぶりに会いに行くんだ。セシリア、すまない」
「・・・いいえ、交友関係の維持は必要なことですし」
「代わりといっちゃ何だけど、来週末はあけるから・・・」
「ちょっと、祐司、私はぁ!?」
「データ取りが間に合ったら合流許可だ。午後一ぐらいには間に合うだろ?」
「待ってなさいよ、一夏、祐司!! すぐに追いつくんだから!!」

 ダッシュで消えた鈴を見送りつつ、一言も助け船を出さなかった親友をにらみつけた。

「何か言うことは?」
「何をいえたのか考えてくれ」

 逆の立場で考えると、いささかのアイデアもない。

「なるほど、理解した」

 そういって振り返ると、にっこり笑顔のちふ、織斑先生。

「さて、色男。何か言い訳は?」
「我が身は潔白です」
「よかろう、その言い訳がいつまで続くかが見物だな」

 かっかっか、と笑いながら去る俺の方を一夏がたたく。

「千冬姉も結構期待してる部分がある。忘れないでくれ」
「・・・うっす」

 一夏が弟となる日が来るのかどうか、それは神様だけが知っている気がする。

 

 そんなアホ話を弾の部屋でしたところ、リア充爆発しろと叫ばれてしまった。

「おま、あのミツバチマーヤがいる魔窟でエロいことなんて出来るかよ」
「正直毎日が精神戦だ」
「・・・すまん」

 あのエロ悪魔、毎日毎日ユサユサしやがって。
 それを見越して首相も「手をだしなら日本人に・・・サキュバス以外で」と念押ししやがってぇ!!
 IS授業でISスーツじゃなくて水着で参加する教師とか、それを見習ってハイレグ水着とか準備する生徒とか、ファウルカップが限界ですよ!!

「・・・あー、画面越しなら天国風景だな」
「リアルで画面の向こうにたって見ろ。『立った』だけで大騒ぎだ」
「『一夏が立った』って、ハイジや小山羊を上回る勢いで踊り出すぞ」
「『祐司が立った』でも踊るな」

 主に、世間の噂的なものが。

 男の自尊心を木っ端微塵にする環境、それがIS学園である。
 まぁ、ドウテイこじらせたらマーヤでもありという世代もいると思うが、さすがに無条件穿孔に初めてを捧げるのは勘弁してほしい。

「・・・苦労してるなぁ、お前等」

 涙を誘われた弾とスクラムを俺たちが組んでいるところで、部屋の襖が開かれた。

「おにぃ、そろそろ飯だってぇ!!」」

 ずばんと開かれた襖。
 現れたのは、フリーというにはラフすぎる蘭であった。

「よ、蘭。久しぶりだな」

 にこやかな笑顔の一夏を見た瞬間、真っ赤になった蘭は襖を閉めた。

「い、い、い、一夏さんっ!なんでウチにぃ!?」
「ああ、外出許可がでたんで、祐司と一緒に遊びに来たんだけど、ウルサかったかな?」
「い、いいいいいい、いいえぇぇ! ウルサくなんてぜんぜん!! さっきまで部屋で自習してましたけど、一夏さんたちがいるなんて気づきませんでしたしぃ・・・」

 徐々に声のトーンが落ちてゆく。
 併せて弾の顔色も悪くなってゆく。

「蘭、家族モードの格好のとき悪いけど、俺らにゃ目の毒だから少し格好を整えてきてくれるか?」

 俺の言葉を聞いて、襖越しに機嫌が直る気配を感じる。

「なんだよ、祐司。蘭だって家じゃリラックスしたいだろ?」
「おまえな、一夏。千冬さんだっておまえの前ではリラックスした格好だけど、俺やら弾の前じゃふつうのカッコウしてただろ?」
「・・・そういやそうだな」
「家族と友人、それなりに心つもりが変わるのが女性というモノだ」
「おお、たしかに。蘭、悪かったな」
「・・・・いいえぇ」

 ちょっと離れてゆく蘭の声を聞いてうんうんうなづく一夏。
 俺にささやくような感謝をする弾。
 何ともいつも通りの展開なきがする。

 

 一階食堂で少し待ったところで蘭再登場。
 少しどころじゃないレベルで着飾っているが、それが女性というモノという定義がされているので一夏には疑問がなく「似合ってるな、蘭」とか社交辞令が炸裂している。
 直撃を受けた蘭は真っ赤になったが、一夏に見えない角度で俺にハンドサイン。

『やりました!』

 情勢挽回の感謝が込められていたりする。

 

「・・・へぇ、鈴さんもIS学園にいってるんですかぁ」
「専用機持ちってことで、かなりのエリート枠らしいぞ」
「一夏、らしいじゃなくて、マジでエリートだ」

 手元のスマフォでIS関連のページを読びだし、各国の代表候補名鑑ページを見せた。
 そこには代表候補の中でも専用機を与えられるレベルの人間のほとんどが載っている。
 もちろん、鈴やセシリアも載っている。

「・・・鈴さんの無冠覇王ってまじですか?」
「操縦能力と機動技量、総合で世界一桁の栄冠だな」

 まぁ中国だけに盛ってる可能性がないわけじゃないけど、ゼロにいくら盛っても意味がないのでベースになるモノがある、と信じる。
 ・・・お。

「噂をすれば陰って、さすが中国」

 鳴り始めたスマフォを受信モードにして出てみるとやはり「鈴」。
 五反田食堂にいると話すと、そろそろ到着予定とか。
 見切りがいいね、どうも。

「えーっと、祐司さん」
「なんじゃい?」
「噂をすれば陰、ってなんでさすが中国なんですか?」

 首をひねる蘭に苦笑いでヒント。

「三国志に詳しい人に聞きなさい」
「・・・はい」

 勉強が苦じゃない蘭は、こうやって知識を深めてゆくタイプなのだ。
 人に聞くのではなく、自分で読むだろうことは感じている。
 逆に数馬は答えからさかのぼるタイプ。
 男子三日合ざれば・・・の原点の話になった後、三国志に関わることわざにおぼれることになった。
 この辺がおもしろい奴なのだ。
 本日はどうしてもはずせない用があるとか出来ていないが、夏休みまでに一度全員で会いたいモノだ。

「きたわよ!」
「「「「へいらっしゃーい」」」」

 鈴合流でさらに盛り上がる俺たちであった。

 

 

 というわけで、休日のフォログラムを開帳したところ、多くの一年生が鈴にもの凄い視線を向けて。

「ぐぎぎぎぎ、姫ポジまじで姫ポジやんけぇ!」
「羨ましい恨めしいぃぃぃ」
「憎しみで人を不幸に出来たならぁぁ」
「つうか私たち現在進行形で不幸なんですけどぉ」
「あ、あははは、ほら、単なる男友達多数だし」

 苦笑いの鈴に詰め寄る女子生徒たち。
 男紹介しろとかなんとか。

「でもさぁ、割と競争率高い男どもばっかりよ?」

 弾は結構もてる。
 リアル兄である影響か、年下が集まる。
 蘭の後輩なんかも結構弾に集まっているのだが本人は年上萌え。難しい話である。
 一夏は、まぁ、重度の鈍感持ちなので難しいし、グラビア診断から巨乳好きである。年齢は年上系好き。やっぱ千冬さんの影響が大きいと思う。
 で、雑食と思われがちな数馬だが、実は清楚+ガリベン系が好みだったりする。ナンパでも派手な子の陰に隠れている娘っこを狙っているあたりがマニアック。
 俺の「かつあげバレンタイン」はさておいて、一夏も弾も数馬も結構な量のチョコをもらっているため、ホワイトデーのお返しのための予算確保を目的としたバイトに四苦八苦したもので、結構楽しい思いでだったりもする。

「くぅ、そっかぁ、弾くんっていうのかぁ」
「一夏君は、ちょっと難しいかしら?」
「祐司君って、ふりーじゃ・・・うそ、うそだってばオルコットさん!!」

 何とも騒がしい休日とアフタータイムであった。

 

 週明け、なぜか一組に転校生来襲。
 人数は二名なのだが、片方が問題。
 自称、男子IS三号。
 クラスでは「男の娘」だと盛り上がっているし一夏も「待望の男子」と盛り上がっている。
 盛り上がっているんだけどね。

「なぁ、セシリアさんや」
「なんですの、祐司さん」
「男子IS1号発見から逆算して、代表候補にまで達する時間が確保できると思いますかねぇ?」
「男子であることと、『デュノア』であることを加味した人選という可能性もございますわよ?」

 なかなか意味深な回答だ。
 とはいえ、思いっきりグレーだ。
 正直、一夏が見つかる前から発見していて訓練していた、時期を見て発表するつもりが一夏と俺の発表が先にされて・・・みたいな話をされても疑問の方が多い。
 少なくとも、そういうクレーバーな判断が出来るなら、早々に公表して株式を支えるべきだし、資金を収集する看板にもなるわけだし。
 そんなことをいっている間に、銀髪小柄が一夏まで近づいて張り手モーション発生。
 一夏も見え見えの動作をスェードバックで避けて見せる。
 一瞬むっとした小柄だが、苦々しく何かをいおうとしたところで出席簿アタックが発生。
 そのまま席に着かされて授業開始の流れになったのだが・・・

「阪上、織斑。男子のよしみだ、デュノアの面倒を見てやれ」

 えー、と不満の視線を織斑先生に送ると逆ににらまれた。
 あれは「察しろ」ということだろう。
 面倒な話だ。

「では、次の授業はIS実習だ。遅れるなよ」

 そういいながら教室を出る織斑先生を見送りつつ、俺と一夏は荷物をまとめて移動準備。

「あ、阪上君と織斑君だよね。初めまして、僕は・・・」
「名前はお互い知ってる、自己紹介は後にしよう」
「デュノア、教室はこれから女子更衣室になる。俺ら男子はアリーナの更衣室までダッシュしなくちゃならない」
「「急ぐぞっ」」
「・・・はい」

 なぜか顔を赤らめたデュノアの両手を俺たちがひっぱり、廊下をダッシュしたのだが・・・

「あ、織斑君と阪上君と、新顔美少年発見!!」
「噂の男の娘だわぁぁぁ!!」
「織斑君と阪上君に手を引かれる姫ポジ美少年、いける、いけるわぁぁぁ!!!」
「夏の薄い本が激厚決定よぉぉぉぉ!!!」

 ヤバイのがいるな、うん。

「一夏、Bプランだ」
「よっし」

 そういいつつ、一夏が廊下の窓を開けると俺はデュノアの姫だっこで空に飛び出る。

「きゃ、きゃーーーーーーーーーー!」
「女みたいに叫ぶなっ、て」

 といいつつ、窓の正面の木へドロップキック。
 反射で校舎を蹴って、木を蹴ってと繰り返して地上に到達。
 デュノアは目をぐるぐるさせていた。

「な、な、何者なんだよ、阪上君って・・・」
「ああ、俺も知りたいよ」

 そういいながら、同じルートでやってきた一夏が肩をすくめる。

「君ら行動全般が謎すぎるよ!!!」
「「イイつっこみだ、デュノア」」

 俺たちの返答に肩を落とすデュノアであった。

 

 

 着替え中、手早くというかISスーツ着用済みのデュノアからの質問。

「いつもあんな無茶してるの?」
「あー、なんつうか、ほら、肉食系淑女が多いんだわ、このIS学園」
「ほれ、男子ならわかるだろ? あの系統の飢えた女子ってこえーじゃないか」
「・・・あ、うん、そうだ、ねぇ・・・」

 視線をゆっくり逸らしながらのデュノアを見ていて、ほぼ確証を得たと言っていい。
 姫だっこで見た目の体積と重心バランスがあってないのは確認できたし。
 あとは決定的な証拠でもあれば追い討ちできるけど、何となくそういう相手じゃない気がするんだよな。

「ま、一番怖い山田マヤがおそってこなければ、何も怖くねーけどな」
「あー、あのJサキュバス、ね」

 ネットりした視線を思い出してか背筋をふるわせるデュノア。
 疑ってみると「そう」としか見えないのが怖い話だ。

「ってと、そろそろ出ないと遅刻だな」
「そうだな。祐司、デュノア、いこうぜ」

 そういいながら、全身モデルのISスーツの上から上着を羽織る俺と一夏。

「ね、ねぇ、織斑君、阪上君。何で上着を着るのかな?」
「「・・・肉食系女子の視線が鬱陶しいから」」

 あの腹筋をねっとりと見る視線はげっぷがでるのです。
 女子が男子の胸を見る視線を感じるという話、実感してしまいましたわ。
 つうか、まーやもガン見するんだけど、セシリアも結構ガン見するんだよなぁ。
 それも結構ゆるんだ表情で。
 逆に「ちら見」は篠ノ之箒や他の日本系生徒。
 男女関わらずムッツリであると知れた日本です。

 

 授業に俺たち三人は遅れなかった。
 が、更衣室から出たところで一組二組の女子がほぼ全員舌打ちしたのが何とも。
 エロへの期待は男子高校生クラスであると理解できる光景です。
 本日のIS実習は専用機持ちが指導者となって一般生徒の実習補助をするというものなのだが。

「・・・俺は専用機持ちじゃないぞ」
「「「「「えええええええええええええ」」」」」

 なぜか俺の前に列が出来やがった。
 なんとも命冥加な話じゃないか。
 思いっきりにらむと、奇声を上げるのは勘弁してほしい。
 なにがなにやら不明だ。

「出席番号順に並び直せ。なお阪上はボーデヴィッヒの補助に」
「「「「「はい!!」」」」」

 一気に並び直したわけだが、なぜ俺がボーデヴィッヒの補助につけられたかが即時にわかった。

「・・・」

 このちびっこ、コミュ障だわ。
 つうか、たぶん「私はあなたたちとは違うんです」という系統の痛い子に違いない。
 つうわけで、拙いながら俺が前に出るほか無かった。
 一組も二組もそれなりに練習機に乗ってる関係で危なげない操作であったが、やはり勘所や微妙な部分も多く、たすけてぇーという視線が起き退き飛んでくる。
 そこに本来であれば代表候補が勘所を教えに行くところなのだが、ちびっ子は全く動かず。
 仕方なしに楯無会長から教わった勘所を伝授して立ち直ってもらったりしている。
 明瞭な表現でイメージを伝えられているらしく評判は悪くない。
 逆に鈴の感覚感性伝達は無茶があるらしく、かなり不評。
 一夏とデュノアは、まぁ、男子扱いなので。

 

 午前の機動実習のあとは、午後に整備実習となる。 その前に昼食会となったのだが、解放されている屋上広場でお弁当を持ち寄ってとなった。
 参加者は、箒、鈴、セシリアの女子組。
 俺、一夏・・・デュノアの男子組。
 正直、冷めてもおいしい酢豚弁当を渡されて俺は舞い上がったわけだが、是非とも試食してほしいというセシリアのサンドイッチを何の警戒もなく食べて失敗した。

 気絶した俺が目覚めたのは放課後。
 保健室でのこと。
 絶えず侵攻してこようとするマーヤから俺を守るという専用機持ち達の連携で貞操が守られたのはありがたいが、一応の苦言をはく。

「試食を必ずすること」
「・・・はい」
「あと、今度何か作るときには俺か一夏を呼べ」
「・・・へ?」
「セシリアの味付けのままだと、自殺になりかねない」
「・・・はい」

 顔を真っ赤にしてうつむく彼女には悪いが、人体上の生死がかかっているのだ。
 いろいろとプライドはあるだろうが頑張ってほしいものである。 
 あと、鈴。
 その手があったかという顔はやめなさい。
 俺か一夏が死ぬことになるから。