第二十四話

第二十四話


 麻帆良男子学区の高校部室に大量の女子中学生流入という噂は男子寮を駆けめぐり、妄想高らかなイカ臭い芳香となって校舎を響かせた。
 が、ここにきていい男教育の集大成ともいえる転化が発生し。

「えーっと、風間さん?」
「なんじゃい、アスナちゃん」
「ここってVR部ですよね?」
「一応、二次元魔法研究部ね」

 なぜか乙女系執事喫茶のようになってしまったうちの部室。
 どうやら紳士っぽい態度の模索の末に執事に行き着いてしまったそうだ。
 この応接対応は密かに人気で、二次元魔法研究部への入部希望が地味に増えている。
 そう、女子、で。
 この流れをウチの高校男子は「成功」と確信しているとかなんだとか。
 でもなぁ、ちょっと微妙なんだよなぁ。
 何しろ、若手家令のヘッドハンティングなんて入部目的の名家婦女子もいるんだもの。
 モテ、とは少し角度が違う気がするんだよなぁ。
 まぁ伝え聞く話だと、優秀な家令の育成のために侍女やら何や等とのお見合いなんかも企画されいるそうなので、そういう意味ではご縁のある話なんだろうけど。

「でさ、風間さん。私が魔法出来ないのって、やっぱアレが理由?」
「ほぼ間違いないと思うぞ」
「・・・はぁ」

 神楽坂さんには 微妙なアビリティーがある。
 魔法完全無効化、という飛んでもアビリティー。
 もちろん、全部が全部無効化されるわけではなく、うけいれる気持ちがあると有効になるのだが。
 それでも細々とした魔法が無効化されているので、VR禁止令が出てしまったほど。
 今、本格的に無魔法VRが開発されているので、完成までVRしない警備側をしてもらっている。

「でも、毎日毎日お姫様扱いで、なんだか悪い気がするんですけど」
「まぁまぁ、そのへんは役得と言うことで」
「結構、上の学校の先輩とかから嫌み言われてるんですよぉ」

 聞くところによると、ウチの部室で常駐姫状態の神楽坂は嫉妬の視線を集めているとか。
 他のクラスやウルスラ関係から微妙に攻撃され始めているとか。

「そんなことしたら、ウチの執事たちが黙っていないんだけどなぁ」
「「「「「お嬢様の敵ならば、我らの怨敵」」」」」
「や、やめてくださいぃぃぃぃ」

 縋るように言う神楽坂さんを見て、本日の執事番たちはほっこりである。

「(乙女を愛でる、まじ良い)」
「(欲望とか色々昇華する気がする)」
「(んー、なでなでまではありじゃね?)」

 こんな会話がキッチンスペースでされているのだが、彼女は知らないのである。

 そんな神楽坂が監視番をしている背後には、10台ほどのVRリンカーとリンクシートがある。
 ここに毎日のように女子中学生、というか3A団がやってきてかわりばんこにVRをしていて。
 その影響で女子中学生系の体臭で部屋が満たされ、わりとご飯三杯いける男子羨望の的だったりする。

「(・・・風間さん、VR魔法はだめだったんですけど)」

 そういいながら神楽坂は両手に力を集め始めた。

「(こういうのは出来るようになりました)」

 なんでも高畑先生から教わった戦闘術だそうで。
 魔力と気力を融合させた究極技法だとか。

「(んー、本格的にアスナちゃんを守りにはいったな、センセ)」
「(やっぱりそうですかぁ~♪)」

 うれしそうに身をくねらせる神楽坂。
 それを密かにおいしそうに見つめる執事番。
 うん、かわいいわな、この娘。
 ちょっとおバカっぽい感じが人気の秘訣。
 実はこのポイントのおかげで本格的な攻撃が彼女に降り注いでいないわけだが、その辺は明かさない方がいいだろう。

 

 本日のVR組の中に裕奈がいた。
 彼女は自称「バスケットマン」なのであるが、そろそろ引退時期なので、こっちに比重を高めたとか。

「いやぁー、まじカ○ハ○波、燃えた」

 VRがら出てきたまま、そのポーズをしたところで、両手に気が集まっているのを感じる。

「はいはい、そういうのはVRじゃない日の訓練でね」

 素早く神楽坂ハリセンがひらめき唸る。
 すぱーんとされて裕奈も我に返って謝っていた。

「でもさ、ふーにいちゃん」
「なんじゃい」
「あの技だけ出来ても意味ないんだよね?」

 意味をどこに認めるかによる。

「えーっと、どういうこと?」
「手品としてなら十分。でもゆーちゃんがなんでカ○ハ○波を打ちたかったかを考えれば、ね?」
「・・・あー、そうか、そういうことか」
「看護婦さんにあこがれた人が、マキ○ンの天才になりましたって感じだと思うぞ」
「うん、納得」

 うんうん、と頷いた裕奈は、ちょっと色々考えてみると笑顔を浮かべてみせるのであった。
 まぁ俺も山下も薫ちゃんも、そんな深いい話なんか考えちゃいませんでしたが。

 VRローテーションの鳴滝姉妹は、ポショポショとささやきあって何かを確認している様子。
 なにか、こう、おもしろい感じだ。

 

 さて、VR開発で誤解されているのだが、この製品に高精度映像投影装置は存在していない。
 逆に映像出力装置は微妙に精度が悪い。
 それなのになぜヴァーチャルリアリティーと呼べるほどのリアルな視界を得られるのか?

 これには脳の機能が影響している。

 とある学者の話だが、人間の眼球が得ている情報は、脳が理解している画像の2割ほどであるという。
 後の八割は? 
 なんと脳が今まで見た映像を元に勝手に組み上げているのだ。
 だから、白黒濃淡のドットで写真が表現できるし、いくつかのボビンを組み合わせたモザイク絵を遠くから見ると名画に見えたりする。
 錯覚や誤解はこうやって生まれるのだが、これを逆手に取ったのが超。
 微弱に視神経へ信号を送り、其れっぽい映像を脳みそで作ってもらうという離れ業をかましたのだ。
 眼球に直接光を送っているわけではないので眼精疲労はないし、視力低下などにも対応できる。
 そんなわけで、心底視覚を持ったことのないという人以外で何かを見る訓練を脳みそが行った後であれば、VRで鮮明な空間を見ることが出来る、というか鮮明な認識が出来るという仕掛けになっている。
 もともとの二割にあたる眼球データーを電子的な補助信号でまかなうのだから、そりゃ鮮明だろう。

 この機能自体の小型化は、かなり求められており、VR本体開発に影響するほど。
 そう、昔は見えていた視覚障害者が、このVRで視覚を取り戻したと絶賛したことに始まり、なんとかモバイル型を作ってほしいと全世界規模で署名活動までしやがった。
 これを無視できるほどコチラも世界を隔絶しているわけではないため、なんとか、非魔法化を進めているが、芳しくない。
 まぁあれだ、精霊魔法を使わなくても彫金魔法でどうにかなるレベルなのだが、これを世界に配布すると絶対に分解して解析する馬鹿がいるわけで。
 加えてガワダケ変えて自国で開発したとか大騒ぎの馬鹿も予想の範囲。
 そんなわけで、ソフトだけで特殊な効果を生み出す+特殊素子で視覚野干渉という新技術を、モバイルで造らなければならなくなったという本末転倒ぶり。
 明らかに世界から足を引っ張られていると感じている俺と超。

 ともあれ、物理的な科学接続は、USAのドベル研究所が実現しているので、あとは非接触型をという簡単な流れであるとか思っているのが面倒。
 つうか、その部分を技術公開すれば、自分達でやる的な声明もあるわけで。
 その好評技術を絶対に視覚補助以外に転用しないという契約をすればいいんだけど、軍事と商売に転用することが規定路線なので公開なんぞ出来るはずも無い。

「・・・魔法公開したほうが、楽だったネ?」
「・・・う、ぐぅ」

 ぐうの音も出なかった俺ですよ。

 というわけで、魔法並みの精度と奇跡レベルの回路彫刻で、どうにか試作品を作ったわけだが、この視覚補助デバイス、面倒なところに影響が出た。
 なんと、視覚障害者よりも高齢者が多く求めたのだ。
 視覚障害者は一定の割合しか存在しないが、老化による視覚能力低下の補助となると、全人類が必要とするようになりうるわけだ。
 これを商売にしないのは馬鹿だと、某国の企業が叫んだのを皮切りに、外交ルートで大騒ぎ。
 視覚障害者用に試作したという視覚補助デバイスを、我先に奪い合う各国代表者。
 もちろん、呼んでも居ないのに現れた某国大使なんかは「これはわが国のものだ!」と叫んで顰蹙を買ったのだが。

「視覚障害者用のデバイスを、健常者が取り上げるんですか。そりゃ剣呑な話ですね」
「「「「「・・・・・・」」」」」

 とりあえず、商業ベースに乗るほどの精度を各社で出せるはずも無い基礎設計書をお土産にもたせたら、世界各国の精密機械製造メーカーから「ベースマシンの設計を見せろ」という申し入れが殺到。
 そう、現行の設計レベルにたいしてこの世界の加工技術では追いつかない精度が求められているのが即座に理解できる内容を渡したのだから当然だろう。
 この精度をわが国の加工技術は成し遂げられると叫んだ国があったが、その背後で日本に対して加工技術の技術供与をしろとかいってるのが片腹痛い。

 もちろん、高精度加工装置製作用のベースマシンなど存在しない。
 ○ーソンの向こうに居るドアーフが居れば全く問題ないのだし。

 とはいえ、反日で盛り上がるはずの某国も、流石に未公開新技術を反日だからと切り捨てることが出来ず、ああでもないこうでもないと方策を練って、日本から新技術を奪う算段をしているそうだが、現実の話をすればありえないのだ。
 あの国に関わるつもりも関わらせるつもりもないし。
 非魔力版だって輸出禁止措置を厳重にしているぐらいだから。

 差別だ何だと抗議もきたが、絶対に曲げない。
 少なくとも日本国内の工業団体は間違いなくその判断を支持してくれているし、陰ながら米国の工業団体も支持に入っている。
 やはり基礎研究なしで発展技術だけを切り売りしている影響で、人件費の安さと開発費用なしで価格設定が出来てしまい、結果だけが手に入ってしまうというループの中に嵌まり込んでいるのだろう。
 その悪影響は周辺の技術供与国に波及。
 あおりを食らった日本や米国の態度が鉄板になるのは仕方ないだろう。

 それはさておき。

 視覚補助デバイスの試験貸し出しは順調。
 主に日本国内とUSA、EU特定国にしか貸し出されていないけど、その効果は絶大だとSNS等で書き込みが多い。
 そう、自分の視覚で見て書き込みをしているという内容とセルフィーは反響が大きい。
 騒げばもらいが多いと確信している国は無視するが、死ぬまでに故郷をもう一度見たいとかいう話にはNHKなどの番組取材班も込みにして派遣して実験をしてもらっている。
 今のところ昔見えていた人で視覚補助デバイスの恩恵が無かった人間はゼロ。
 もちろん、視覚野自体の劣化によって見えない人には恩恵が無いのはわかっているが、見たいという妄執が奇跡を起こすこともあるので人間なめられた話ではない。

 これにあわせて非魔力版のVR端末も貸し出しを開始した。
 これはゲーム機なのでリアルの風景を視覚できないが、見る、という行為を思い出せるものである旨の書き込みで貸し出し開始。
 膨大な希望者が集まったが、茶々丸の補助を受けて選別を行い、世界中、およそ1億台の貸し出し出荷を行った。
 中には盗難されたものもあるが、秘密部隊による奪還が行われ、即座に回収されているという噂がちらほら。
 実際はGPS監視していて、指定座標以外で開封されたら「収納」しているだけなのだが。
 正体不明の回収班に対して、現在某国で指名手配がされ始めた。
 無断でわが国に進入し、わが国の国民の財産を奪った存在、なのだそうだ。
 もう、本気で関わらないでくれとか思ってしまう。
 なんならあの国土を収納して「倒す」のもありなんじゃなかろうか、とか思った俺は悪くないだろう。

 

 そうこうしているうちに、俺の卒業が近くなってしまった。
 明石教授からは、即座に自分の研究室に所属してくれとオファーが入っており、その影響は大きい。
 何しろ科学面でも魔法面でも明石教授への相談が多いので。

「風間さんは助教授格で引き込むのがイイヨ」
「超くん、それだ!」

 そこから始まった明石教授の人材確保運動は、逆に周辺の研究室の目を引き俺の注目方かまた提供で横槍が入りまくり。
 とりあえず工学科の基礎学年に入学させて様子を見るという形に流れてしまった。

「俺の進路なんですけど」
「・・・風間君、君がもうチト自重していればのぉ」

 近衛総合理事長の言葉は重かったのでした。

 現実の話をすれば、いろいろと都合がいいのと悪いのと、様々な話があるので麻帆良大学に入学は決定事項扱い。
 加えて、大学に入ったら速攻で魔法先生系の組合にも組み込まれる流れになっているそうだ。
 というか、非管理戦力として大きすぎるので、対外的に首輪をつけないと恐ろしいことになるとかならないとか。

「主に、婿殿が関西呪術協会に引き込もうとしておってなぁ」
「・・・京大とか、絶対学力的に無理なんですけど」
「いや、禰宜に、とな」
「うっわぁ・・・」

 神主養成な大学入りですか、まじ確保の勢いとかドン引きなんですけど。

「とはいえ、最近風間君が中心になって開発した視覚補助デバイスが注目されておっての。工学系大学から神道系進学は勘弁してくれと泣きが入っておるのでの」

 ということで、色々とあって強制入学らしい。
 まぁ楽でいいけど。

 現状で言えば、いろいろと生活基盤ができてしまったので、麻帆良に住み続けるのは楽でいいし。
 いろいろと詰めに入らないといけない人間関係も進んできたしなぁ。
 その時間を確保できるのはありがたいと思う。

 

 俺の卒業と裕奈の卒業にあわせて、卒業旅行を企画してくれるという雪広財閥。
 あからさますぎるんですけど、とアヤカ嬢に言うと、彼女自身も苦笑い。
 VR関係から先のリンクを雪広で取りたい意向があるそうで。
 ずいぶんと泥臭い卒業旅行もあったものだとは思う。
 卒業、というのは裕奈達だけではなく、ネギ君も卒業、なのだそうだ。
 魔法修行で先生をしていた彼だが、本格的に先生をするには勉強が足りないと実感したそうだ。

「じゃぁ、大学にでも行くのかい?」
「できれば、麻帆良の教育学部に進みたいと思ってます」

 そのために、麻帆良の高校へ入って卒業資格を取るとか。

「前向きだね、ネギ君」
「・・・この一年ちょっとで、色々と学ばせてもらいましたから」

 といいつつ、リジェ○を唱えるネギ君。
 ・・・ちょっと斜めすぎだろうか、と少し反省。

「二次元魔法研究部の顧問は誰に頼もうかねぇ」
「刀子先生が引き継いでくれる段取りです」
「おや、ありがたい話だけど・・・」
「もちろん、大学部の方は明石教授に」
「順当だなぁ」

 ネギ君と二人で苦笑いであった。

 

 二次元魔法研究部、というか、新魔法研究会は既存の魔法生徒や魔法先生からも熱いリスペクトを受けている。
 できれば入れてほしいみたいな話もでているが、新規入部は大学部で拠点開設してから、という話になっている。
 なにしろ今の段階でハイエナ男子がうろちょろしているのだ。
 意識の伝達できていないヤりたがりな大学生の狩り場に女子中学生や女子高校生を簡単に招くわけにはいかないわけで。
 このへんの意識はウルスラあたりにも伝わっているので正面からの文句はこないが、それなりの不満が神楽坂に来ている話を先日聞かされている。
 まぁ、魔法、というよりも執事番を羨んでの話がメインだったけど。
 それはそれとして、様々な企業活動展開した影響で、税務申告をしなければならなくなったのは仕方ないことだろう。
 とりあえず、○ーソン経由で処理しているので、外の時間ではゼロタイムだが、それなりに時間がかかったというかかかりまくったというか。

 高校生在学中に税務申告なんてすることになるとは、お釈迦様でも思いつくまい。

 まぁ、仕方ないけど。
 それはそれとして、結構な額の税金になるかと思いきや、ぎりぎり黒字になった程度で、帳簿上では赤字一歩寸前で処理することができたのはありがたい話。
 納税がいやなわけではないが、バカみたいに利益がでているとなると甘い汁を吸うための詐欺師のような役所が出来上がる恐れがあるので。
 うん、VRにしても視覚補助デバイスにしても、ドル箱だもの。

 すでに外務省経由で各国からの問い合わせが来ているとか、外交交渉対応品として扱わせてほしいとかいう交渉が来ているが、取引設定額が渋すぎて話にならなかった。
 メガネ二組一万円、そんな価格設定を示せる根性を疑う。
 もちろん、一億も二億もよこせと言っているわけではない。
 材料費だって開発費だってそれなりにしかかかっていないのだから。
 だが、国策なんだからやすくしろ、とばかりの態度には腹が立つもので。
 思わず無表情でお断りしてしまった。

 その場でものすごくお怒りの役所担当者は席を立ったが、翌日上司と役人を連れて来た。
 もちろん、俺たちに謝っているのではない。
 謝るという姿勢を見せたし、役人と政治家というバックボーンもつれてきたんだからやすくしろ、と脅迫にきたのだ。
 そんなわけで、前回の交渉に来た際の証拠映像を見せて、政治家と上司の方々に聞いてみた。

「どのような報告を受けているかは知りませんが、我々は誠意のない話をされていると感じています」

 ずっぱり冷凍鉄板対応に真っ青になった担当者。
 そして真っ赤になって担当者をにらむ上司。
 で、苦笑いで俺を見つめる政治家。

「提示した金額は、まぁ、この部署の限界価格だったのは間違いねぇ。態度も最悪だったのは認める。しかし、あんた、あんたの態度もどうかと思うが?」

 べらんめい、そんな感じが似合う政治家のおっさん。
 泥臭い感じだが、豪腕の気配を感じる。
 
「それはそちらが、学生という立場の人間を低く見積もって、大人の立場から上から目線で小遣い感覚で取り上げて叩き潰すつもりでいたら反撃されたのでムカついた、という感覚を持っているという理解でよろしいでしょうか?」

 まぁ、そういう話をしているわけではないのは理解しているが、こっちの冷凍鉄板対応の原因を理解してほしいものだ。

「そうじゃねぇだろ。交渉、つう場所にたったんだったら、お互いの立場を考えるべきだって言う話だ」
「年齢を武器にするというのですか?」
「武器じゃねぇ。年齢は事実だ。経験と体験という、な」
「少なくとも、非礼を認め、責があることも認めていらっしゃる方々から、その謝罪一つも受けていない段階で態度を改める必要性も感じないのですが? 自己紹介もうけていない政治家の男性さん」

 名刺交換すらしていない相手と交渉だなんて、詐欺師を相手にして居るものだというと、政治家の男性は腹を抱えて笑った。

「そりゃそうだ、そっくりさんかもしれねぇし、議員バッチなんざどこででも手に入るもんなぁ」

 ひとしきり笑った後、政治家の男性は深々と頭を下げた。

「政府対応の不備で不快な思いをさせたことを深くお詫びします。担当大臣である、嘉納太郎の名において、これ以降誠実な交渉をさせていただきたいので、おつきあいいただけるだろうか?」

 それに対しておれも頭を下げる。

「人生の大先輩である方々に失礼な態度をとり続けたことをお詫びします。ですが、この視覚補助デバイスは最悪の兵器にもなりうる存在です。現在のような厳重な管理体制下でないと運用は難しく、外交のカードとして技術供与すれば、その瞬間から第二のダイナマイトとなることが運命つけられているものです」

 俺が鞄から取り出した資料をみて、嘉納大臣はもとより訳書の上司さんも真っ青になった。

「こいつは、おそろしい転用じゃねぇか」
「もちろん、現状のまま転用はできません。しかし、間違いなく魔改造されればソコに行き着きます」
「・・・こりゃぁ、外務省じゃねぇな。防衛省のど真ん中じゃねーか」
「現存のパソコンだって軍事利用すれば防衛省のど真ん中です。車だって自転車だって」
「・・・わりーが外務省は手を引け。総理経由でこの案件は総務省が握る」

 真っ青になった役人二人は頭を下げてその場を去った。

「・・・つうわけで、悪かったな。あいつ等を凹ますだけですめばよかったんだが、こんな飛道具が出てくるってことになるってぇと・・・」
「ああ、ご安心ください。懐中電灯の光を集めてデススタ○のレーザーにするぐらいあり得ませんので」
「なんだとぉ!?」

 びっくり目の嘉納大臣に俺はほほえんだ。

「この情報がどの国に流れるかをみれば、どの部署の誰がイリーガルかが丸わかりですよ?」

 再び大爆笑の嘉納大臣は俺と名刺交換をして意気揚々と帰って行ったのであった。

「・・・のう、風間君」

 終始無言だった近衛統合理事長。

「はい?」
「わし、引退してもいいかのぉ?」
「あはははは、もうちょっとがんばりましょうよ」

 がっくり肩を落とした近衛統合理事長の肩を優しく揉んでみたが顔色が悪いままだった。
 うん、みずでのばしたエリキサーでも差し入れるか?

 

 後日、某隣国から
「日帝が世界征服をたくらんでいる証拠をつかんだ」というニュースが世界を席巻したのだが、その荒唐無稽な情報を精査した各国の政府は「遺憾の意」を示し、日本は正式に抗議を発した。
 政府主催の記者会見でも、

「日本という国は高性能のCPUを搭載したゲーム機を大量に制作している。このゲーム機を並列処理させれば莫大な処理量となり世界のネットワークを支配できるだろう、世界は日本にねらわれている、という発表の方がまだ理解できます」

 という担当報道官の台詞を聞いて、無礼、非礼、などと在日大使が抗議に来たのだが、総理は正面から「では、世界征服をたくらんでいるなどと言う日本のアニメでも昨今聞かない冤罪を我々は、どれだけの量の抗議すればいいのでしょうか?」と言い返したとか。
 その件については本国に問い合わせ中であると胸を張ったそうで、それに対し、

「本件の正式な回答がくるまで、貴国との交渉の一切を受け付けません」

 と言い切ったそうな。
 あまりの切れ味に恐れをなした在日大使は即時に本国照会をしたそうだが回答は一切無く、在日大使離任のその日まで回答はなかったという。

 

 あからさまな罠にはめられた、日帝による情報工作によって国のに威信が傷つけられた、これは悪の枢軸国家である日本帝国の世界汚染の一端である。

 とまぁ、そんな話が某隣国で語られているとか。
 自分の失敗を相手に転化して、自分は悪くないと言い募る姿は見苦しいもので、現政権から民意が離れて言っているという。

 確かに罠だったけど、何の精査もなしに発表するとか思いもしなかったのは俺も政府も同じで。
 まさかまさか、と笑ってしまった。
 正直に言えば、これだけあからさまな罠だったら、自分たちの国の諜報能力をバカにしているのかと逆ギレされてミサイルの一つでも発射されるのではないかとすら思っていたのだが。

 素のままの情報で記者会見で発表し、政府系報道機関ではバリバリ新聞印刷し、号外を国内どころか世界に配って、さらにはいつもの特定国文字ではなく英語フランス語ロシア語中国語などに翻訳したネットニュースまで流した後に、

「・・・なにを寝ぼけてるんですか? こんなこと実現不可能ですよ?」
「第二次大戦中の日本が開発した殺人レーザーの実用化の方がリアルですね」
「ああ、なるほど、コ○アンジョークですね?」

 という反応が返ってきて、

「・・・懐中電灯の光を集めてデススタ○のレーザーにする方がリアルじゃねーか?」

 と、日本国内のとある大臣談話が広まると、逆にそちらの談話の方が大いに受けて、ネットニュースをにぎやかにさせたわけだが。

 この流れに某国は切れた、マジギレした。

 UN議会で、資料をたたきつけて、敵国条項発動の動議をしたのだ。

 結果は、まぁ、提出された資料の不備事項を技術的な観点で滔々と説明が行われ、明らかに現実の資料ではなくSF(サイエンスファンタジー)SF(サイエンスフィクション)SF(少し不思議)の守備範囲であることがUN議会全体で認識された。
 この検証には基礎物理学や基礎科学などの初歩的な知識があれば理解できる範囲なのですが、と解説担当の科学者の言葉を聞いた瞬間、某国UN大使は母国語で喚きたて、自分の机の上にある資料を投げつけ、同時翻訳用のインカムを床にたたきつけて議場を後にした。

 

 




とまぁ、こんなかんじですw