第11話

第11話


長らくお待たせいたしました。


それは突然だった。
朝から本部の射撃場で、手に入ったばかりの大型マグナム『S&W M―500』を撃っていたところ、リツコさんがやってきた。

「どう? シンジくん、M―500(その銃)は」

まだ手に馴染んでいないのもあるが、朝から数えて600発…まぁ順調に撃てている。
スコアは今のところノーミス…と言っても、クリティカルヒットは600発中200発と、3発に1発しか出ないけど。

インカムから聞こえたリツコさんの声に、僕がそう言うと、リツコがやや目を見開くのが分かる。

「流石ね…リボルバーの中でも飛び抜けてサイズ・反動の大きなその銃を、ワンハンドショットで3発に1発クリティカルとは。私もグロック17やM92Fならそこそこ使えるけど、それでもクリティカルヒットは、ツーハンドで20発に1発が限界だわ。リボルバーなら例えサイズの小さいM60でも無理ね」

「筋力とか段違いですしね」

「そうね。それとシンジくん」

「はい?」

「気持ちよく撃ってるところ悪いけど、召集令が出されたわ。もちろん総員第一種戦闘配備よ」

「ッ!?」

しまった。
戦闘配備の報で動揺したのか、ミスショットをやってしまった。
左腕部を掠める程度のヒットで3点って…仕方ないか。

「って事は…」

「ええ、使徒が現れたわ。パイロットはプラグスーツ着用で、発令所に集合」

「了解!」

僕はM―500に弾丸を装填(リロード)し、セーフティーをかけ、銃を本体と同時に届いた、特製のレッグバンド型ホルスターに収納する。
そして先に射撃場を出たらしいリツコさんを追った。



-発令所-

「だから! レイとシンジくんのツーマンセルで、先制攻撃を仕掛けなさいっての!」

「しかし葛城一佐、敵の攻勢能力が不明である以上、迂闊に攻撃を仕掛ける訳には…」

発令所では葛城さんとシゲルさんが、ディスプレイに映った青い使徒――まずラミエルで間違いない――を指差し、先手の取り方で揉めていた。

「失礼します」

「来たわね。レイはそっちに居るから、座っててちょうだい。詳しい方向性が決まったらお願いするわ」

リツコさんに指し示された先には、プラグスーツを着用した綾波が、手にマグカップを2個持って、発令所専用と銘打たれた、クッション付きの仮設ベンチに座っていた。

「待ってたわ、碇君。はいこれ、コーヒー」

「ありがとう。ねえ、綾波」

「何かしら、碇君」

「現在最新の情報は?」

綾波の話では、相手は第5使徒ラミエル。

ラミエルは遡る事5時間前、房総半島沖10kmの地点に突如出現。
当該の海域で哨戒任務にあたっていた、海軍の偵察機がこれを発見し、連絡を受けた国連がコードA(国家戦略級危機)を発令…作戦の全権がネルフに委託された。

ラミエルは、出現から変わった動向を見せぬままゆっくりと…時速15キロほどの速度で東京に上陸、まっすぐこちらに向かっているらしい。

「がーっ! どうしてこうもチンタラチンタラ出来るのよ!? あんなの見たまんま高防御力ってだけでしょう!? 機動力も低いし、ここまで変わった動きも見せていない…ならやる事は、相手が動く前に正面から先制攻撃! コレしかないわ!」

…ふむ、このままだとまた、ヤシマ作戦前に、ラミエルの加粒子砲に曝される?
瞬間的にもシンクロを切れる僕はともかく、自我も痛覚もあるアイに、流石にそれは可哀想だ。

じゃあどうするか、足掻いてみるほかないかな。

「リツコさん」

「何? シンジくん」

「敵の攻勢能力って、まだ不明なんですよね?」

「ええ、こちらからアクションを起こそうにも、相手の進行速度が遅くてね…まだ遠いわ」

実のところ僕や綾波、リツコさんに限っては、ラミエルどころか以降の使徒全ての外見や特徴、攻撃手段などを熟知している。
リツコさんはコンピューターに同化し、それを掌握して進化する異形の使徒『イロウル』に興味津々だったけど。

「無駄かもしれないと分かってての提案なんですが、無人式の戦闘機を飛ばして相手に近付け、相手の反応を見れませんかね?」

僕がそう片目を閉じながら(・・・・・・・・)言うと、リツコさんには伝わったらしい。
彼女は即座に手元の端末を叩き、ややあって頷いた。
そして副指令のところに行き…

「副指令、提案が」

「提案? 何かね、赤城君」

「サードチルドレンの発案で、対象がこちらの掌握範囲外にいる内から、無人偵察機等でリアクションが見れないか、と」

攻撃範囲外にいる内から、ラミエルの攻撃手段が、特定範囲内にいる対象への加粒子砲による狙撃…遠距離攻撃だと分かれば、僕を乗せたアイが無造作に射出され、カウンターばりに撃たれた加粒子砲に曝され、ましてや回収までの僅かな時間であっても、無闇に被弾する危険は少なくなるはずだ。

戦闘機を数台壊しちゃうから、その戦闘機を出す軍には悪いけど、僕と綾波とアイの平穏の為、勘弁して欲しいな。

「…ほう……」

「使徒の攻勢能力が不明である以上、迂闊にエヴァを出せば射出と同時に即時撃破の恐れもあります。現に第3使徒・第4使徒の際は、作戦部部長の無計画な出撃で、初号機の損傷並びにパイロットもダメージを受けていますので」

『作戦部部長の無計画な出撃』の時に葛城さんを睨むリツコさん。
言外に『お前のせいだ』と言いたいらしい。
まぁリツコさん、今は勘弁してあげて下さい。
あの時はちゃんと殴っておきましたので。

「…続けたまえ」

「続けます。海外はともかくとしまして、今我々に稼働させられるエヴァは現状2体しかなく、更に片方は…零号機は未だ機体、ならびにパイロットに調整中の部分が多くあり、出撃には無数の不安事項が予測されます。故に使徒打倒は、パイロット及び機体に不安の無い初号機の役目となりますが、迂闊に出撃させて撃破されてはまた無駄な時間と労力を要します。しかし無人偵察機ならば例え破壊されても、我々ネルフとして、機関としての損害は軽微…更に無人機なので人命も守れます」

今の国連軍には、数年前のモデルではあるが、優秀な戦闘機が数多く存在する。
そしてセカンドインパクト以降、機械の無人化は飛躍的に進んだ。

「偵察機を6機、デルタ編隊で飛行させ使徒に接近…対象の出方を見ます。飛行の指示やログはMAGIで回収・解析し、今回の作戦に役立てます」

幸いラミエルの進行速度は遅く、知りうる限り加粒子砲以外の、直接攻撃手段は持っていない。

「……良かろう、やりたまえ。国連軍にはこちらで指示を出しておく。碇、何か問題はあるか?」

「ふっ、問題はない」

言って父さんは口の前で手を組み、またいつもの姿勢に戻る。

そんな父さんを見ていてふと考えた。

アダムどうしよう?

過去の流れでは、次のガギエル戦の最中…ガギエルとの戦いに巻き込まれぬよう、垂直離陸戦闘機(VTOL)で逃げ出した加持(かじ)さんが、逃げた先をネルフ本部に定め、情報収集ついでに父さんへ渡すと言うのが基本だったけど。

どうするかな、とりあえず確保しようかな?
現時点で既にサキエルとシャムシェルは押さえてある訳だし。
使徒を全部押さえて、更にアダムとリリスがあれば、カヲル君と戦わなくて済むかも知れない。
リリスは手元にあるも同然だけど。

「(そうね、私がリリスだもの)」

隣で相づちを打つ綾波の言う通りだ。

「無人偵察機、反応消失!」

「なっ!? どうやって…」

「かろうじて残っていたデータより、解析映像が上がりました! 使徒の攻撃は…超高出力の加粒子砲です!」

僕たちがそんなことを考えている間に、冬月副指令からゴーサインが出たようで、さっそく無人機が飛ばされたようだが、あえなく消滅させられたらしい。
用いられた武装は加粒子砲とのこと。
交わされる話を聞いて、やっぱりかという思いが去来する。

ラミエルはあの形状と速度ゆえに、ただ硬いだけというイメージを持たれがちだが、実は攻撃能力も高い。
放たれる加粒子砲は、最大出力で放たれると山が半分消し飛ぶという、とんでもない威力を持っている。
そしてそんな超高威力の加粒子砲は、チャージから発射までが約4秒と短く、さらには狙いも結構精密で、以前の僕は初号機(≠アイ)に登場して射出されたが、地表に到着した直後、ハンガーロックが外れるまでのわずかな時間を狙い撃たれ、何もできずに重傷を負わされた。

「加粒子砲、ね…迂闊にエヴァを真正面に射出させなくて正解だったわね」

僕が語って聞かせた、対ラミエル戦のファーストコンタクトシーンを思い出したのか、リツコさんがそんなことを口にした。

「リツコ!?」

「だってそうでしょう? あの使徒は見た目はこそあんなのだけど、その体を構成する直線部…図形なんかでいう1辺の長さは、周囲のビルの高さから察するに300mはある、割と洒落にならない大きさだわ。それでその巨体がよ? 自身からしてみれば豆粒のような、それでいて高速で周囲を飛行する戦闘機を正確に狙い撃てるだけの射撃能力を持っているのよ? そしてエヴァはその射出の様式上、射出直後はこちらからハンガーのロックの解除をしないと自力では動けない。これらから考え出される結果はただ1つ。射出したエヴァを狙い撃ちにされて、パイロットが重傷を負うか死亡する。そうなったら人類滅亡待ったなしよ? もしそうなった場合はミサト、貴女、責任が取れるのかしら?」

「ぐっ…」

「…というわけで副指令、私は今しばらく、無人機などで散発的な攻撃・陽動を繰り返し、足止めを行ってデータの収集にあたるとともに、MAGIを用いて作戦の拡充を図ることを提案します」

「…いいだろう、やりたまえ」

「ただし、あまり時間はないからそのつもりでな」

「はっ!」

さて、これでラミエルの前に出されて、動けない状態で加粒子砲を浴びる危険性はほぼゼロになった。
とはいえ次の問題は、ラミエルをどう倒すか、ということなんだけど。

「無人戦闘機のミサイル直撃…いえ、当たってません! ATフィールドで防がれました!」

「やはり備えていたか…推測強度は?」

「肉眼で確認出来るほど強力ですよ…見てください」

「…超望遠のカメラでもハッキリと見えるな」

「あの高威力・超精度の加粒子砲による狙撃と、肉眼でも見えるほど強力なATフィールドか…どうすればいいのだろうな?」

…やっぱりヤシマ作戦になるんだろうか?
それとなくMAGIで調べたところ、つくばの戦自研が、新型の陽電子砲を完成させてるって情報があったし…

「…あ」

「どうしたの? シンジくん」

「リツコさん、あ、いえ。この前僕がお遊びで設計したパラボラシールド、実際に作るとしたらどれぐらいの時間がかかるかなって思いまして」

「パラボラシールドって…アレかしら? アレなら…そうね。ネルフの開発部へ持ち込めば、4日と経たずに作ってくれるんじゃないかしら? ただ、突貫作業で作るだろうから、出来るのは1枚のみでしょうね」

…ならいけるか?

「リツコさん、ちょっと調べてほしいことがあるんですが…」

「…ええっ!? でも、その情報って、もしかして…?」

「…まあ、一応は、ですがアレです」

「…分かったわ。総指令にも提案して、なんとか通してみるわ」

「タイミングを間違えないでくださいね」

「オーケーよ」